ハラスメント対策シリーズ:15

第4章 ハラスメント対策

1.ハラスメントチェックリストー1
(1)チェックリストの類型
ハラスメントをなくすためには、留意点や考え方の浸透にとどまらず、組織として対策を講じていくことが必要です。
ハラスメントは、相手がどう感じるか、その感じ方に個人差があることで表面化しづらい側面があります。ハラスメント対策では、職場での自主点検を定期的に実施することで、組織に所属する個人個人の意識や認識を同じにしておく必要があります。これには、チェックリストを活用した“意識合わせ”が有効です。

チェックリストには、大きく3つのタイプがあります。
1つ目はハラスメントに該当するかどうか確認するチェックリスト(個人・組織の認識)で、管理者だけでなく、従業員も含めた全員で確認することで、個人・組織の認識を合わせ、ハラスメントへの注意喚起と発生を防止するものです。
2つ目は労働者の意識や実態を把握したり、対策について意見を聞いたりするために行っていることや、ハラスメントとはどのようなことかを労働者に理解させるための啓蒙活動に対するチェックリスト(職場の防止の取り組み)です。主に管理者に対し、防止の取り組みを問うものです。
3つ目はハラスメント懸念および事後の適切な対応を理解しているかのチェックリスト(対策の理解)で、ハラスメント対策が適切に運用されているか、管理者・労働者の理解を問うものです。
これらのチェックリストを活用し、対策の有効性を確認しましょう。

(2)セクシュアルハラスメント対策
① セクシュアルハラスメントに該当するかどうかのチェックリスト(個人・組織の認識)
以下のうち、セクシュアルハラスメントに該当するものはどれでしょう?

 チェック内容該当するものに☑️
1女性社員の容姿やプロポーションについては、いつも誉めるようにしている。
2性的な冗談も、女性社員が笑って聞いているので問題はない。
3握手はコミュニケーションなので、少し強引でも許される。
4部下の女性や男性を「うちの子」「〇〇ちゃん」と呼んでいる。
5同じ職場の女性に好意を持っていたので食事に誘った。
6秘書業務は女性社員を配置するようにしている。
7男性の上司から「男のくせにしっかりしろ」と叱咤された。
8女性社員にはなるべく残業をさせないようにしている。
9疲れ気味の女性職員には親切に肩を揉んであげるようにしている。
10業務の打上げで男性社員、女性社員のカラオケはデュエットと決めている。
11飲み会では課長の隣は女性が座ると決めている。
12食事に付き合わない女性社員には仕事中も声をかけないようしている。
13部下のワーク・ライフ・バランスが気がかりだったので子どもは作らないのかと聞いた。
14セレモニーの花束贈呈は、女性社員が渡すと決めている。
15部下に仕事を依頼するときは、メモにハートマークをつけて渡している。

1、2、3、5、9、13、15は、どれもセクシュアルハラスメントに該当する危険性を含んでいます。1、5、13、15は、相手の受け止め方によって不快に感じる場合とそうでない場合がありますが、たとえほめ言葉でも、女性を蔑視していたり、嫌がっているのを強要したり、しつこかったり、露骨な表現などは該当します。13はたとえ部下への気遣いであったとしても個人的な家族計画を聞くことは性的な関心に基づく言動とみなされセクシュアルハラスメントに該当します。

2、3、9は明らかな性的な発言や身体への接触、強要があり、セクシュアルハラスメントに該当します。

4、6、7、8、10、11、12、14は、女性、男性を対等とみていない言動でセクシュアルハラスメントに該当します。業務は適性や能力で、セレモニーの贈呈も目的や相手で決めるべきで女性蔑視にあたります。10のカラオケのデュエットそのものは該当しませんが強要すれば該当します。12は典型的な対価型セクシュアルハラスメントです。

② 職場におけるセクシュアルハラスメント防止の啓蒙施策チェックリスト(職場の防止の取り組み)

職場におけるセクシュアルハラスメントに対する従業員の意識や実態を把握したり、対策について意見を聞いたりするための体制を整えていますか?

☑️チェック内容
社内における実態調査のためのアンケートを実施している。
職場ごとに話し合いを行い、意見を聞いている。
従業員を集めるなどの機会を設け、意見交換会を実施している。
人事面談などの際に、意見を聞いている。
社内に専用電話や、メールなど専用の相談窓口を設置している。
相談に対する担当者を予め決めている。
外部の機関に委託している。

職場におけるセクシュアルハラスメントとはどのようなことかを従業員に理解させるために、次のようなことを行っていますか?

☑️チェック内容
従業員の意識調査を行い、男女労働者間の認識に差があることや、男性もセクシュアルハラスメントの対象となること、同性間でも生ずること及び対象となることを理解させている。
チェックリストを作成し、従業員にセクシュアルハラスメントについての認識度を自己点検させている。
職場ごとの会議や、階層別の研修などで、セクシュアルハラスメントに関する事項について注意喚起を行っている。
従業員の意識啓発のための小冊子を作成し配賦している。

職場におけるセクシュアルハラスメント防止に対する啓蒙活動を行っていますか?

☑️チェック内容
就業規則や社内倫理規定、社員行動基準などにセクシュアルハラスメントの内容やその禁止について規定し、全従業員に配布している。
「職場におけるセクシュアルハラスメントの内容やそうした行為を許さない」ということを盛り込んだパンフレットやポスターを作成し職場に掲示している。
経営トップがセクシュアルハラスメント防止宣言をし、社内のイントラネット掲示板に載せるなど、様々な方法で全従業員に発信している。
セクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、これを全従業員に周知している。

③ ハラスメント懸念および事後の適切な対応を理解しているかのチェックリスト(対策の理解)

セクシュアルハラスメントが懸念される場合、及びハラスメントが生じた事実が確認できた場合において、以下の行動を取っていますか?

☑️チェック内容
事実関係を迅速かつ正確に確認するための手順が明確化されている。
事実確認をする際に、当事者双方に主張を公平に聞くことにしている。
当事者双方の間で事実関係が一致しない場合、当事者に了解を得た上で、必要に応じて第三者からの話も聴取している。
会社が講じる措置を当事者に説明することにしている。
就業規則に基づき、行為者に対して一定の制裁を課すこととしている。
当事者間の関係改善について援助を行うこととしている。
被害者と行為者を引き離すための人事上の配慮や、労働条件などに不利益が生じている場合はそれを回復することとしている。
男女雇用機会均等法第18条に基づく調停などの第三者機関の紛争解決案に従った措置を講じることとしている。
管理監督者や産業保健スタッフ、専門家などによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応を行うこととしている。

事後の適切な対応を理解していますか?

☑️チェック内容
セクシュアルハラスメントに関する相談が寄せられた時点で、これまでの対策防止に問題がなかったかの再点検をすることにしている。
「セクシュアルハラスメントを許さない」という会社の方針および行為者には厳正に対処する旨の方針を、社内報やパンフレット、社内イントラネットなどにより再認識させている。
セクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修・講習を改めて実施している。
社内で相談しづらい雰囲気がないか、相談・苦情への対応状況を再検討している。
ハラスメントが生じた原因を分析し、防止対策を再検討している。
相談者・行為者等のプライバシー保護や名誉尊重のために必要な事項をマニュアルに定め、知りえた事実の秘密を厳守するよう徹底している。
相談者・行為者、事実確認に協力したことを理由に解雇等の不利益取り扱いがされない旨を従業員にも周知・啓発している。

(3)マタニティハラスメント対策(妊娠、出産、育児、介護)
(妊娠・出産および育児・介護が必要な労働者に対するハラスメントも含む)

① マタニティハラスメントに該当するかどうかのチェックリスト(個人・組織の認識)

以下のうち、マタニティハラスメントに該当するものはどれでしょう?

 チェック内容該当に☑️
1妊娠をした部下に子育ては大変だから家庭に入った方がよいと勧めた。
2妊娠したらこれまでのように働けなくなるので、違う部署に配置転換を行った。
3入社して1年未満の労働者には育休は必要ない。
4部下に妊娠を告げられたが、他の社員と平等に扱うために特別扱いをしないと言った。
5後輩が育休を取ることに対して「給料もらえていいよね」と言った。
6「妊娠って病気じゃないから」と育休経験のある女性の上司に言われた。
7妊娠中や産休・育休中に解雇するのは禁止されていると思うが、契約期間が終わって、次の更新をしないこと自体は問題はない。
8子どもが小さいうちは急な休みも多いので、責任ある仕事は任せないようにしている。
9男性社員の育児休業は、誰も取得していないので、希望があった場合も「前例がない」と言っている。
10妊娠中や、時短勤務の女性は、仕事に身が入っていないので、人事考課では評価を下げている。
11検診を予定している女性社員に対し、業務で外せない会議があるので日程の変更を依頼することは問題ない。
123人目の妊娠を同僚から聞き、「また?」と言った。

3、7、9は制度等の利用への嫌がらせ型で、男性の育児休業取得への嫌がらせなどもハラスメントに該当します。1、2、4、5、6、8、10、12は妊娠や育児休職などを取得したことなど、状態への嫌がらせ型で、妊娠や出産、制度の取得をしたことに対し、解雇や不利益取り扱いを示唆する言動となります。

4は平等な対応は問題ありませんが、妊娠によって体調不良等の可能性がある部下にとって上司の言葉が精神的な負担になることが十分に考えられます。5、6、12などの配慮のない言葉などもハラスメントに該当します。11は検診日の変更を依頼すること自体はハラスメントに該当しません。ただし、「会議があるのに検診で休まれるのは困る」など、労働者が負担に感じるような言い方をした場合はハラスメントに該当しますので注意が必要です。

②職場におけるマタニティハラスメント防止の啓蒙施策チェックリスト(職場の防止の取り組み)

職場におけるマタニティハラスメントに対する従業員の意識や実態を把握したり、対策について意見を聞いたりするための体制を整えていますか?

☑️チェック内容
社内アンケートを実施し意見を聞いている。
対象者に対してマタニティハラスメントの懸念がないか意見を聞いている。
人事面談などの際に、意見を聞いている。
社内に専用電話や、メールなど専用の相談窓口を設置している。
相談に対する担当者を予め決めている。
外部の機関に委託している。

職場におけるマタニティハラスメントとはどのようなことかを従業員に理解させるために、次のようなことを行っていますか?

☑️チェック内容
管理者:管理者の意識調査を行い、解雇や業務内容において不利益な取り扱いとなることを示唆していないか、確認している。
管理者および労働者:制度の利用をしようとするもの(妊娠・出産に関する制度を利用する女性労働者および育児・介護に関する制度を利用する男女労働者)に対して制度利用や請求を阻害したり、嫌がらせをしていないか確認している。
チェックリストを作成し、従業員にマタニティハラスメントについての認識度を自己点検させている。
職場ごとの会議や、階層別の研修などで、マタニティハラスメントに関する事項について注意喚起を行っている。
従業員の意識啓発のための小冊子を作成し配賦している。

職場におけるマタニティハラスメント防止に対する啓蒙活動を行っていますか?

☑️チェック内容
就業規則などで定められた、妊娠・出産および育児・介護に関する制度の理解や周囲に促したい協力・理解内容などを周知・啓蒙している。
「職場におけるマタニティハラスメントの内容やそうした行為を許さない」ということを盛り込んだパンフレットやポスターを作成し職場に掲示している。
経営トップが他のハラスメント同様に防止宣言をし、社内のイントラネット掲示板に載せるなど、様々な方法で全従業員に発信している。
マタニティハラスメントに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、これを全従業員に周知している。

③ ハラスメント懸念および事後の適切な対応を理解しているかのチェックリスト(対策の理解)

マタニティハラスメントが懸念される場合、及びハラスメントが生じた事実が確認できた場合において、以下の行動を取っていますか?

☑️チェック内容
事実関係を迅速かつ正確に確認するための手順が明確化されている。
事実確認をする際に、当事者双方に主張を公平に聞くことにしている。
行為者が職場全体に及ぶ場合、メンバー全員及び他の部署などへの意見聴取を行い、事実関係と状況を把握することにしている。
 就業規則に基づき、行為者に対して一定の制裁を課すこととしている。
当事者間の関係改善について援助を行うこととしている。
被害者と行為者を引き離すための人事上の配慮や、労働条件などに不利益が生じている場合はそれを回復することとしている。
男女雇用機会均等法第18条にもとづく調停などの第三者機関の紛争解決案に従った措置を講じることとしている。
管理監督者や産業保健スタッフ、専門家などによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応を行うこととしている。

事後の適切な対応を理解していますか?(対策の理解)

☑️チェック内容
マタニティハラスメントに関する相談が寄せられた時点で、制度の利用への理解や手続き方法に問題がなかったかの再点検をすることにしている。
「マタニティハラスメントを許さない」という会社の方針および行為者には厳正に対処する旨の方針を、社内報やパンフレット、社内イントラネットなどにより再認識させている。
マタニティハラスメントに関する意識を啓発するための研修・講習を改めて実施している。
社内で相談しづらい雰囲気がないか、相談・苦情への対応状況を再検討している。
ハラスメントが生じた原因を分析し、防止対策を再検討している。
相談者・行為者等のプライバシー保護や名誉尊重のために必要な事項をマニュアルに定め、知りえた事実の秘密を厳守するよう徹底している。
相談者・行為者、事実確認に協力したことを理由に解雇等の不利益取り扱いがされない旨を従業員にも周知・啓発している。

(JDIOダイバーシティ・シニアコンサルタント 高本奈緒美)