ハラスメント対策シリーズ:3

2.セクシュアルハラスメント
(1)セクシュアルハラスメントとは
セクシュアルハラスメントとは、職場において行われる労働者の意に反する「性的 な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることです。経営者、上司、同僚だけでなく、取引先、顧客、患者、学校の生徒なども行為者にも被害者にもなり得ます。
また、異性に対するものだけでなく、同性に対する性的な言動もセクシュアルハラスメントになります。被害者の性的指向(*1)や性自認(*2)に関わらず、性的な言動はセクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。
 (*1 )性的指向:人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか
 (*2) 性自認:性別に関する自己認識  
職場のセクシュアルハラスメントには「対価型」と「環境型」といわれる2種類があります。

①対価型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことにより、その労働者が解雇、降格、減給される、労働契約の更新が拒否される、昇進・昇格の対象から除外される、客観的に見て不利益な配置転換をされるなどの不利益を受けることをいいます。
 例えば、次のような事例があてはまります。
 ・経営者から性的な関係を要求されたが、拒否したら、解雇された。
 ・出張中の車中で上司から腰、胸などを触られたが、抵抗したため、通勤に2時間もかかる事業所に配置転換させられた。

②環境型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなり、労働者の能力発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で見過ごせない程度の支障が生じることをいいます。
 例えば、次のような事例があてはまります。
 ・事務所内で上司が腰や胸などを度々触るので、また触られるかもしれないと思うと仕事が手に付かず就業意欲が低下している。
 ・同僚が取引先でプライベートな交友関係の性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流したため、そのことが苦痛に感じられて仕事が手につかない。

③「性的な言動」とは
性的な内容の発言や性的な行動のことをいいます。
 ・性的な内容の発言の例
  性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(うわさ)を流すこと、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど
 ・性的な行動の例
  性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦など

「男らしさ」「女らしさ」や「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」といった性別に基づく役割意識が根本にある言動は、セクシュアルハラスメントの原因や背景になってしまう可能性が高まります。このような言動が多い職場では、セクシュアルハラスメントが起こりやすくなるともいわれています。日頃から自らの言動に注意するとともに、上司・管理職の立場の方は、部下の言動にも気を配り、職場でセクシュアルハラスメントの背景となり得る言動が行われていないかについても配慮することが大切です。

3.妊娠・出産・育児等に関するハラスメント(マタニティハラスメント)
(1)マタニティハラスメントとは
マタニティハラスメントとは、職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されることを指します。
マタニティハラスメントには、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類があるとされています。
①制度等の利用への嫌がらせ型
出産・育児や介護に関連する社内制度の利用に際し、当事者が利用をあきらめるざるを得ないような言動で制度利用を阻害する行為を指します。
 例えば、次のような事例があてはまります。
 ・産休の取得について上司に相談したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
 ・育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
 ・妊婦健診のために休暇を取得したいと上司に相談したら、「病院は休みの日に行くものだ」と相手にしてもらえなかった。
 ・介護休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに介護休業をとるなんてあり得ない。他の家族で対応できないのか」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。

②状態への嫌がらせ型
出産・育児等により就労状況が変化したことに対し、嫌がらせをする行為をいいます。   
 例えば、次のような事例があてはまります。
 ・上司に妊娠を報告したところ、「次回の契約更新はないと思え」と言われた。
 ・上司から「妊婦はいつ休むか分からないから、仕事は任せられない」と雑用ばかりさせられている。
 ・同僚から「こんな忙しい時期に妊娠するなんて信じられない」と繰り返し言われ、精神的に落ち込み業務に支障が出ている。

一方で、次のような「業務上必要な言動」はハラスメントに該当しません。ただし、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があるため、注意が必要です。
 ・制度等の利用を希望する労働者に対して、業務上の必要性により変更の依頼や相談をすること
 ・妊婦本人はこれまで通り勤務を続けたいという意欲がある場合であっても、客観的に見て妊婦の体調が悪い場合に、業務量の削減や業務内容の変更等を打診すること

(2)不利益取扱いの禁止
妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度を利用したこと等を理由として、事業主が行う解雇、減給、降格、不利益な配置転換、契約を更新しない(契約社員の場合)といった行為は、「不利益取扱い」となります。
 例えば、妊娠したことを伝えたら契約が更新されなかった、育児休業を取得したら降格させられた、等が不利益取扱いに該当し、法律に違反することにもなってしまいます。

(JDIOダイバーシティコンサルタント 特定社会保険労務士 大森絵美)