ハラスメント対策シリーズ:1

第1章 ハラスメントの定義と種類

1.ハラスメント問題の概要

(1)ハラスメントの定義

①「ハラスメント」という言葉の意味

ハラスメントという言葉には、弱い立場の相手に嫌がらせをする行為という意味があります。英語ではharassmentと表記。直訳は、嫌がらせや迷惑行為を行うこと。それぞれのハラスメントの定義については、厚生労働省が管轄し、発行しているホームページやガイドブック等で定められていますが、総じて「加害者の故意の有無に関係なく被害者が不利益を被り苦痛を感じるようなすべての言動」がハラスメントにあたります。セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント、マタニティハラスメントについては法律の規制も定められ、メジャーな言葉になっていますが、そこから派生して、現在はさまざまなハラスメントが存在します。いくつか挙げてみましょう。

モラルハラスメント言葉や態度、無視など継続的な精神的嫌がらせ
ジェンダーハラスメント性に関する固定観念や差別意識に基づき、「男らしさ」や「女らしさ」を求めるような言動
ソジハラスメント性的指向や性自認に対する嫌がらせ (SOGI(ソジ)とは、性的指向と性自認の頭文字の造語)
アルコールハラスメント本人の体質や意向を無視して、上下関係等で飲酒を強要する嫌がらせ
パタニティハラスメント後述するマタニティハラスメントの男性版で、育児休業の取得を妨げたりすること

最近では、仕事や職場に関連するものをはじめ、生活やプライベートに関すること、人種や国籍・性別に関するものまで、あらゆるものがハラスメントという言葉を付けて使われる風潮があります。セクシュアルハラスメントであれば、「セクハラ」、パワーハラスメントであれば「パワハラ」というように「○○ハラ」と略して呼ばれることも特徴です。 このシリーズでは、主に職場で発生するセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントの3つを取り上げます。

②「職場」とは

「職場」・・・事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所 

労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。具体的には、出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む)、勤務時間外の懇親の場、社員寮や通勤中なども、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。ただし、実際にハラスメントが起こった場合の判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。

③「労働者」とは

「労働者」・・・正規雇用の労働者のみならず、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用するすべての労働者

また、派遣労働者については、直接雇用関係がある派遣元事業主だけでなく、労働者派遣の役務の提供を受ける派遣先事業主も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。

(2)主なハラスメント

このシリーズで取り上げる3つのハラスメントの概要です。詳細については、各章で説明しています。

①セクシュアルハラスメント

職場において行われる労働者の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることをいいます。

②マタニティハラスメント(妊娠・出産・育児休業等ハラスメント)

職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業・介護休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されることを指します。これらは、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と言われることもあります。

③パワーハラスメント

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景 とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすものをいいます。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しないこととされています。

(JDIOダイバーシティコンサルタント 特定社会保険労務士 大森絵美)