ハラスメント対策シリーズ:4

4.パワーハラスメント
(1)パワーハラスメントの現況
従業員向けに開設している相談窓口において、従業員から相談の多い上位2テーマを聞いたところ、パワーハラスメントが 32.4%と最も多く、メンタルヘルス(28.1%)、セクシュアルハラスメント(14.5%)を上回っています。(平成 28 年度 厚生労働省委託事業「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」報告書)

図表1-2 従業員から相談の多い上位2テーマ

出所:平成28年度厚生労働省委託事業「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」報告書

(2)パワーハラスメントの予防・解決の取組の効果
パワーハラスメントの予防・解決のための取組を進めた結果、パワーハラスメントの予防・解決のための取組を進めた結果、パワーハラスメントの予防・解決以外に得られた効果をみると、「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(43.1%)が最も高く、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.6%)が続きます。また、「休職者・離職者の減少」(13.4%)や「メンタルヘルス不調者の減少」(13.1%)を回答した者がみられます。少子高齢化の中で、人材不足はますます深刻になり、人材の確保の重要性がより大きくなっています。こうした観点からもパワーハラスメントの予防・解決のための取組みを進めることは不可欠です。

図表1-3 パワーハラスメントの予防・解決以外に得られた効果

出所:平成28年度厚生労働省委託事業「職場のパワーハラスメントに関す実態調査」報告書

(3)パワーハラスメントの定義
パワーハラスメントは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、以下労働施策総合推進法、第30条の2第1項)と定義されています。

①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③労働者の就業環境が害される
以上①~③の要件を全て満たすものが、パワーハラスメントにあたります。

①優越的な関係を背景とした言動
優越的な関係とは、抵抗や拒絶をしづらい関係をいいます。職務上の権限が上位、つまり「上司→部下」の関係が典型ですが、これに限られません。事実上、強い立場にあれば、優越的な関係にあたります。「同僚→同僚」「部下→上司」であっても優越的な関係にあたる場合があります。
1) 職務上の地位が上位の者からなされる言動
 典型的には、上司から部下へなされる言動です。業務上の指揮命令権がある直属の上司・部下の関係ではなくても、親会社からの出向社員である、別部門の上位者であるといったような、抵抗や拒絶をしづらい関係にあれば、優越的な関係であるといえます。
2) 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
 職務上、上位にあたるといっても、上位者が現場の業務に通じているとは限りません。上司よりも、部下の方が経験年数が長く、その部下なしでは、現場の業務が進まないということは雇用流動化が進んだ現代においてはよくみられます。こうした立場を背景に、部下から上司に対し中傷や暴言を行うことなどが例の一つです。
3) 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
 職務上、上位にあたるといっても、部下の協力を得なくては業務を遂行できないのが通例です。上司の命令に対し、集団で無視するなどの例があたります。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
「業務上必要…な範囲」とは、業務上の必要性が認められる範囲であるということです。業務と関連のない業務時間外の交際関係など私生活への介入は、業務上必要な範囲を超えた言動にあたります。
「相当な範囲」とは、業務上の必要性が認められても、相当な範囲でなければなりません。本人の行動に問題があり、指導の必要があったとしても、指導の手段・頻度(回数)・継続性(時間)等が社会通念上相当でなければなりません。
 例えば、本人の変えようのない年齢や性別などに対する否定的言動は指導の手段としての相当性を超えると考えられます。一度の軽微なミスに対し、数十回注意を行うというのも、頻度の相当性を超えると考えられます。数時間も叱責を行うことも、継続性の相当性を超えると考えられます。
 以上、言い換えれば、言動を受けた本人が、不快や苦痛に感じたとしても、業務上適正な言動であれば、パワーハラスメントにはあたりません。ただし、相当な範囲かどうかの判断には、本人の能力・心身の状況等も考慮されます。例えば、新入社員とベテラン社員とでは指導の仕方も異なってきますし、病気から回復して職場復帰したばかりであれば、相応の配慮が必要となります。

③労働者の就業環境が害される
「労働者の就業環境が害される」とは、言動によって身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快になり、能力の発揮が十分にできなくなるような就業上の支障が生じることを言います。刑法上の、暴行・傷害、脅迫・名誉棄損・侮辱罪に該当するような行為が、これに該当するのは当然ですが、これに限られません。

(4)パワーハラスメントの具体例
①典型例
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号、以下パワハラ防止指針)では、以下の6類型を典型例として整理しています。

1)身体的な攻撃
暴行・傷害
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること

②該当しない例
 このパワハラ防止指針では、該当しないと考えられる例の記載もあります。例えば、身体的な攻撃に該当しない例として、「誤ってぶつかること」が挙げられています。この該当しないと考えられる例の解釈には注意が必要です。「誤ってぶつかることを例にとれば、加害者とされたものが、「あれは誤ってぶつかったのだ」と主張さえすれば、パワハラに該当しないというわけではありません。また、従業員同士が誤ってぶつかりやすい動線であれば、パワーハラスメント問題とは別に、会社の安全配慮義務として動線の改善を行うべきです。

(JDIOダイバーシティ・シニアコンサルタント 青柳由多可)