ハラスメント対策シリーズ:2

(3)ハラスメントの影響

①職場のいじめ・嫌がらせの増加
 厚生労働省が公表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数のすべてにおいて、「いじめ・嫌がらせ」が8年連続でトップとなっています。民事上の個別労働紛争の相談件数では、いじめ・嫌がらせに関するものが、2019年度で87,570件ありました。

図表1-1 令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況

                   

出典:厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

②労働者への影響
 職場でハラスメントが行われたときの労働者への影響には、心身の不調、働く意欲の低下、能力発揮の阻害、職場環境の悪化が挙げられます。
 なかでも心身の不調に陥ってしまうと、休職にいたったり、その後の仕事復帰が難しくなったり、断念したりしなければならないケースも起こり得ます。
 加害者にそんなつもりがなかったとしても、被害者にとっては一生の傷になることもあるため、職場で起こるハラスメントは許されてはならないのです。また、被害者と加害者の当事者のみならず、事実確認への要請のほか、心理面において周囲の同僚にも影響が及びます。

③行為者への影響
 ハラスメントを行った行為者への影響には、懲戒処分・失職、刑事罰、損害賠償、信用の失墜、家庭への影響といったことが挙げられ、本人にとっても大きな損失となります。ちょっとした冗談のつもりや、ほんの少しの気の緩みでした言動が、取り返しのつかない事態を招きかねず、注意が必要です。
 実際の判例では、原告がパワハラの加害者である個人に対し、慰謝料を請求した事件で、200万円の支払いが命じられたケースもあります。

④会社への影響
 職場でハラスメントが起きた会社への影響には、人材の流出、職場環境の悪化、社会的信用の失墜、トラブル対応の労力、措置を怠ったことへの損害賠償といった影響があります。
 また、ハラスメントが起きた事実がマスメディアによる報道で世間に知られると、「ハラスメントが起きた会社」というレッテルが貼られ、社会的制裁を受けます。その影響は甚大で、営業上の取引や人材採用における信用の失墜にも繋がり、社会的信用の回復には莫大な労力と時間を要することとなります。
 判例では、ハラスメントを行った加害者だけでなく、会社の対応にも問題があったものとして、会社に対し、損害賠償が命じられたケースもあります。

(4)ハラスメントと法令の関係
 職場におけるハラスメントに関する法律では、事業主に対して次のとおり措置を講じるよう定められています。
①男女雇用機会均等法
 〈セクシュアルハラスメントについて〉
 職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じること(第11条)
 〈マタニティハラスメントについて〉
 上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした当該女性労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じること(第11条の2)

②育児・介護休業法
 〈マタニティハラスメントについて〉
 上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じること(第25条)

③労働施策総合推進法
 〈パワーハラスメントについて〉
 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(第30条)
 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(第30条の2) 
 なお、③の労働施策総合推進法は2020年6月に改正され、通称「パワハラ防止法」とも呼ばれています。パワーハラスメントの雇用管理上の措置について、中小企業は2022年4月から義務化されました。

(JDIOダイバーシティコンサルタント 特定社会保険労務士 大森絵美)