人を大事にする「働き方改革」の進め方(4)

JDIOダイバーシティシニアコンサルタント 油井文江

働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ

企業の人材難による業績の伸び悩みや、事業縮小・撤退に及ぶケースが少なくありません。「働き方改革」は、人材の枠を拡げ、かつ一人ひとりの生産性を高めて労働力不足に立ち向かおうとする改革です。しかし現実には、進め方に戸惑う企業が多かったり、「改革をやったら経営が成り立たない」と考えたりする経営者が少なくありません。

 そこで、6回に分けて改革の内容と必要性、またその具体的ノウハウを考えていきます。

 各回の内容は次の通りです。

  • 1回目:なぜ働き方改革なのか―①
  • 2回目:なぜ働き方改革なのか―②
  • 3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント
  • 4回目:労働生産性の高め方
  • 5回目:働き方改革の進め方
  • 6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など

4回目:労働生産性の高め方

(1)生産性向上へのアプローチ

①生産性向上は改善と革新(イノベーション)の2種

 生産性向上へのアプローチを整理すると、次のようになります。

  • 効率化型=分母対策と価値創造型=分子対策
    • 効率化型=投入資源を小さくする ⇒ 一定の限界あり
    • 価値創造型=アウトプットを大きくする ⇒ 限界なし
  • イノベーションの2態
    • 技術的イノベーション=画期的な技術の発見、開発ありき⇒ 人口知能、IoT・・・
    • 非技術的イノベーション=現実の問題解決からスタート⇒ 貨幣制度、取引制度・・・
  • 今必要とされるビジネスイノベーション
    • マネジメント分野:経営管理手法、組織運営、財務管理
    • マーケティング分野:市場分析、商品開発、プロモーション
    • 人材分野:人材育成、組織開発、コミュニケーション

②   生産性向上の手法

 図14は、生産性の向上策を改善系と革新系に分け、さらに分母系(コスト削減)と分子系(付加価値創出)に分類した表です。5Sに始まる生産管理の考え方や手法の多くはホワイトカラーの業務にも適用でき、働き方改革の手法としても有効です。

図14 生産性向上策

③ホワイトカラーの生産性向上

「生産性」に係る意識でよくあるのが、①「生産性」は製造業、工場のもの、②生産性を上げる=コスト削減、③生産を増やす=労働時間を増やす、の3つである。ここでは①に関係する、ホワイトカラーの生産性が低い5つの理由を挙げる。

  • a.経営者がホワイトカラーの生産性に関心が薄かった:生産性は製造業のもの意識
  • b.設備投資頼みの生産性マネジメント:自動化等の設備・機器投資中心、ヒトの生産性は、時間指標(どれだけ長く働いたか)が中心
  • c.分母志向の生産性管理:コストカットに依存
  • d.ホワイトカラーの業務が効果を測定しにくい:無限定型働き方が成果測定を阻害(ジョブローテーションや転勤など)、測定指標やマネジメントの開発に不熱心
  • e.長時間労働慣行と残業代の支給制度:労使とも長時間労働を肯定、人員調整のバッファー、生活給意識

(2)生産性向上の武器・ICTの活用

 ICTを利活用している企業としていない企業との間には労働生産性に差があります。平成29年版情報通信白書によると、2012年から2016年におけるICTの利活用(無線通信技術システムやクラウドサービスの利用)を行っている企業と行っていない企業を比較すると、利活用している企業はしていない企業の1.2~1.3倍の労働生産性を実現していました。

 企業規模別でみると、日本企業の99.7%を占める中小企業の場合は、ワードやエクセル等の一般オフィスシステムと電子メール、また経理ソフトの利用が中心でそれも40~50%の利用率に止まるなど、未だ不十分な水準にあります。

図15 ICT利活用による労働生産性向上

出所:平成29年版情報通信白書(総務省) 

図16 中小企業におけるITツールごとの利活用状況

出所:平成29年版情報通信白書(総務省) 

2018年版中小企業白書では、IT導入の効果がうまく得られた理由を労働生産性に与える影響の大きさ別に見ています。最も大きいのは「業務プロセスの見直しを合わせて行った」であり、次いで「経営層が陣頭指揮をとった」「外部のコンサルタントを活用した」でした。業務プロセスの見直しは、他の取組以上にICT導入の効果を高めているといえます。 

図17 IT 導入の効果がうまく得られた理由

出所:2018年版中小企業白書 

(3)テレワーク導入の基本

 企業が働き方改革に取り組む目的として多く挙げるのが、従業員の確保と労働生産性の向上。テレワークの導入はその両方に大きな効果をもたらします。

 テレワークを導入済みの企業と未導入の企業について、従業員が増加傾向と答えた企業の割合から減少傾向と答えた企業の割合を引いたDI(Diffusion Index)では、導入済み企業では直近3年間と今後3年間の両方において10ポイント以上のプラスであったのに対し、未導入の企業ではいずれもマイナスでした(平成29年版情報通信白書)。場所にとらわれずに働ける環境の整備は、従業員の確保にプラスに働くと推測されます。

図18 働き方改革に取り組む目的

企業におけるテレワーク導入の課題は、次にあげるように働き方改革での取組とほとんどが共通します。生産性向上を図る上でも導入への環境整備が望まれます。

a.  社内制度面の主な整備項目

①柔軟な労働時間制度(短時間勤務、フレックスタイム、裁量労働等)、②社外で業務ができる制度(在宅ワーク、モバイルワーク等)、③多様な働き方に対応した評価制度(目標管理制等)、④仕事の見える化・情報共有の仕組み、⑤会議の見直し(会議の廃止、遠隔会議での代替等)、⑥災害・交通遮断等の緊急時対応

b.  情報システム面の主な整備項目

①ペーパーレス化、②会議のクラウド化、③情報共有のシステム化(イントラネット、社内SNS等)、④情報セキュリティ対策、⑤リモートアクセス機器・ソフト(電子決裁、テレビ会議、ビデオ会議等)、⑥社員へのICT機器の支給

図19 企業のテレワーク導入目的と労働生産性向上の成果 

出所:平成29年版情報通信白書(総務省)