人を大事にする「働き方改革」の進め方(5)
JDIOダイバーシティシニアコンサルタント 油井文江
働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ
企業の人材難による業績の伸び悩みや、事業縮小・撤退に及ぶケースが少なくありません。「働き方改革」は、人材の枠を拡げ、かつ一人ひとりの生産性を高めて労働力不足に立ち向かおうとする改革です。しかし現実には、進め方に戸惑う企業が多かったり、「改革をやったら経営が成り立たない」と考えたりする経営者が少なくありません。
そこで、6回に分けて改革の内容と必要性、またその具体的ノウハウを考えていきます。
各回の内容は次の通りです。
- 1回目:なぜ働き方改革なのか―①
- 2回目:なぜ働き方改革なのか―②
- 3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント
- 4回目:労働生産性の高め方
- 5回目:働き方改革の進め方
- 6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など
5回目:働き方改革の進め方
(1) 働き方改革の推進のフロー
①目的の明確化と取り組み手順
働き方改革への取り組みは、一般的には以下の手順で進められます。
a. 目的の明確化
b. 推進体制の整備
c. 現状把握と課題の抽出
d. 取組計画の策定
e. 施策の実行
f. 成果検証・フィードバック
a.目的の明確化
何のために働き方改革に取り組むのかを明確にする。すなわち、働き方改革の実現によって何を達成したいのか、取り組みの未来に何を望むかを描くことが出発点になります。これがないと、方法論ばかりが先行するような、上滑りの取り組みで終わり、従業員はかえって疲弊してしまうので注意が必要です。
b.推進体制の整備
誰がこの推進役を担うか決める。小さな企業では経営者が強力なリーダーシップを発揮するのがもっとも効果的ですし、規模が大きくなれば人事担当者、また現場管理職を巻き込んだり、公募で選ばれた社員によるプロジェクトを結成したりという選択もできます。どのような形態であっても、経営者には推進役が孤立しない、推進役が周囲とのコミュニケーションを確保できるような気配りが求められます。
c.現状把握と課題抽出
働き方に関する現状把握が出発点となります。以下が基本となります。
- 職場は、どのような従業員で構成されているか
- 業務はどのような手順で進められているか
- その業務は、誰が、どのくらいの時間をかけて行っているか
- どのような社内制度があるか、それは法に則しているか、また認知度・利用実績はどうなっているか、公平なものとなっているか
- 従業員はどのようなモチベーションで業務に臨んでいるか
これらは、面談・ヒアリング調査、あるいは勤怠データなどから確認できます。これらを踏まえ、あるべき姿とのギャップを探り、課題を抽出します。
d.取組計画の策定
抽出した課題を解決するため、適切な目標を設定し、その達成に向けての施策を検討する。実施すべきことが決まったら、具体的なアクションプランとスケジュールを作成します。なお、施策に優先順位をつけるなら、「経営方針との整合性」「必要な経営資源」「業績への効果と達成可能性」「従業員のニーズ・納得感」といった視点で絞り込むとよいでしょう。
e.施策の実行
実際に施策を導入・運用する。大きく制度や体制を変える場合は特に、現場の理解を得ながら進めるのがポイントです。
f.成果検証・フィードバック
施策による効果を検証し、その結果をフィードバック・共有する。期待した効果が出ていない場合は、対策を考えてさらなる改善を行います。
②推進上のポイント
a.コア業務へのシフトと不要業務の見直し
長時間労働の削減は、現実的に多くの企業にとって課題です。企業には、自社のミッション達成のために何を優先するか、何に時間をかけるかの見極めが求められます。費用対効果を検証し、
- やめる(廃止する、外注する)
- 減らす(回数や頻度を減らす、集約する)
- より負担のない方法に変える(標準化・マニュアル化・システム化する)
といった取り組みができないか、思い切って判断することが必要です。特に以前から慣習で行っているものがないか、おもてなしが過剰になっていないかなど、検証します。
b.業務の棚卸の実施
業務の棚卸により、業務内容や量が確認でき、それが本当にあるべき姿か考えるきっかけとなります。業務が属人化したり偏在したりしている部分が明確になり、情報共有に向けた対策が打ちやすくなる。さらには、業務を細かな単位に分解することで業務が切り出しやすくなり、制約を持つ従業員に任せやすい業務やテレワーク可能な業務の発見につなげることができます。
c.課題と目標の数値化
数値目標の達成だけがゴールとなってしまっては本末転倒ですが、働き方そして企業経営にどのようなメリットがあるか、課題や目標数値を「見える化」しておけば、施策導入の判断や効果測定がしやすくなります。たとえば以下のような数値。
- 所定労働時間外に、時間単価2千円の従業員5人が2時間の会議を行うコストは?
- 従業員1人が離職することによる、代替要員の採用(募集費用、採用担当者の時間単価×所要時間)、育成(指導者の時間単価×所要時間)にかかる総費用は?
- 従業員が労力と手間をかけて行う作業。これを機械化すると、どれだけの時間短縮になるか? その時間を創造的な業務に振り向けたら?
d.ビジネスのあり方の見直し
働き方改革を、単純に「労働時間を減らす」と捉えては、どこかに歪みがきてしまいます。そうではなく、働き方を変えて生まれた時間を、より創造的なコア業務やスキルアップに充てることを考えます。そして、自社における理想の働き方、さらには自社が顧客に対して本当に提供できる価値は何かを見直すことにつなげることが大事です。
また、従業員にも、自分がどのように企業に貢献できるか考えるきっかけなりえます。働き方改革は、従業員にとっても、企業との関わり方や自身の業務、そして働く上で大事にしている価値観を確認する機会になるのです。