ダイバーシティ・マネジメントが対象とする「多様」の分類

自分にとって他者はすべて多様であるとの認識において「多様」は無数に存在します。ダイバーシティの原点はこの無数の「多様」の尊重にありますが、ここでは実践的な視点から、ダイバーシティ・マネジメントが対象とする「多様」を分類します。

●目に見える多様=デモグラフィック(人口統計学的)属性

デモグラフィック属性とは、社会経済的な特質データのことで、性別、年齢、国籍、障がいの有無、学歴、職業など、目に見える表層的な属性を指します。ダイバーシティ・マネジメントが対象とする主なデモグラフィック属性と考え方は次のようになります。

<性別>

ジェンダー・ダイバーシティ 
  • 日本独特の課題とされる。
  • 性別役割分業意識が強く残り、社会生活や職業生活での女性の地位の低さを生んでいる。特に企業における女性を排除する仕組みや業務慣行は、海外から人権問題視されるほどであり、世界水準とのギャップが大きい。
  • 日本企業のジェンダー・ダイバーシティは、大手を中心に1990年代末にスタート。2000年代末には大半の大手企業が女性活躍やダイバーシティに取組むが、思うほど進まないのが現状。男性基準の働き方とそれを支える性差別意識がネックとされ、全社的働き方改革が課題となっている。
<年齢別>

エイジ・ダイバーシティ
  • 根底にエイジズム(年齢差別=ある年齢集団に対する偏見、または差別)があり、一般には高齢者差別を指す。特に日本は海外諸国と比べエイジズムが強い国とされる。
  • 雇用の場では、若者批判、女性の年齢による差別、中高年の雇用差別、定年制の存在などの形で現れる。特に年功序列と成果主義の狭間で、若者対中高年の世代間対立が厳しくなるという質的問題と、高齢者雇用促進による高齢社員の増加が、年代層ギャップを増加させるという量的な問題を抱え、年齢の多様性をどうマネジメントするかが企業の課題となっている。
<国籍別>

グローバル・ダイバーシティ
  • 2010年はグローバル化元年(慶応義塾大学花田光世教授)と言われ、本社機能の海外移転や国内外企業トップ層への外国人の就任、人材のグローバル採用の大幅な拡大、また国内企業の英語社内公用語化などが急速に進んだ。
  • 国内組織のダイバーシティとグローバル組織のダイバーシティは、多様な属性を理解し活かす点で根本において同じだが、現状は、そもそものダイバーシティ・マネジメントの遅れと、日本人の多文化対応力の低さに直面している。外国人労働力に係る規制緩和が進む中、ダイバーシティ・マネジメントによる立ち遅れの解決が喫緊の課題となっている。
<障がいの有無・内容別>

チャレンジド・ダイバーシティ
  • 企業の障がい者対応は、国の福祉政策的取組に沿う雇用義務を果たす視点が強い。しかし、何らかの障がいを有している障がい者数が国民の7%近くとなり、その求職件数が年々増加する中、国の政策も障がい者の自立・就労支援へと転換している。
  • 企業においては、積極的な受け入れと、1人ひとりの資質や特性に応じたダイバーシティ・マネジメントが求められている。

●目に見えない多様=深層的属性

深層的属性とは、宗教、習慣、価値観、信条、性格、意見、能力、働き方、経験などの、目に見えない属性を指します。組織パフォーマンスへの影響において、デモグラフィック属性を超えるものとして重要視されています。

<意見、価値観など>

オピニオン・ダイバーシティ 
  • ダイバーシティはイノベーションの必要条件と言われる。ICT時代のクローズドシステム(閉鎖系)からオープンシステム(開放系)への変化、また人・組織・業界を超えたコラボレーションが必要とされる産業経済にとって、オピニオン・ダイバーシティはますます重要性を増す。
  • 「多様な人達が引き起こす創造的な摩擦(不協和音)こそが、新たなイノベーションにつながる」(コロンビア大学教授デビッド・スターク「多様性とイノベーション」)との提示にあるように、知のシナジーとそれによるイノベーションは、ダイバーシティ・マネジメントの最も大きな獲得物といえる。
  • オピニオン・ダイバーシティでは、価値観、発想、思考、主張を相互に理解する「深い関係性」と「高い多様性」がキーワードとなる。組織では、上下・役割の隔ての無い自由な空気や闊達な意見交換をもって、摩擦を超えた融合と相互支援が可能となる。
<職務、職場経験など>

タスク・ダイバーシティ
  • タスク・ダイバーシティの際立つ例として、M&A(企業の合併・買収)がある。M&Aによる組織統合の一番の課題は職務、職場経験などの「異文化統合」とされ、M&Aがダイバーシティに着目するきっかけとなる事例も多い。言いかえればカルチャー・ダイバーシティと捉えることもできる。
  • M&Aに必要な経営統合(経営戦略やマネジメントシステム)、業務統合(事業拠点や組織)、意識統合(企業文化や社風)のいずれにおいても、違いを学び強みを生みだすことなしに、統合の相乗効果や投資効果を得ることは難しい。特に人材面の統合が困難とされる中、カルチャーを含む意識統合を図るダイバーシティ・マネジメントが重要になる。
<身体・心の性的指向>

セクシャリティ・ダイバーシティ
  • LGBTなどのセクシャリティの多様なあり方が顕在化している。LGBTは、レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)を指す。
  • セクシャリティは、これまで、多様性の中でもっとも対応が遅れていた分野だが、海外での同性婚の法的認証や、国内企業でのセクシャリティの倫理規定への明記、また社員の行動基準に、性的指向による差別を行わないと明記するなどの動きが注目される。
  • 雇用の場でのダイバーシティはこれからだが、統計上20~30人の職場に1人存在するとされるだけに、職場での差別意識や福利厚生などの制度利用の壁は、人権の観点からまた人材としての観点から取組む意義が大きい。
  • 一方、日本でのLGBTの市場規模は5.7兆円(電通総研2012年調査)とも言われ、市場対応としてもダイバーシティ・マネジメントが重要となる。

一社)日本ダイバーシティ・マネジメント推進機構専務理事 油井文江