ハラスメント対策シリーズ:9

2.経営環境の変化
(1)時代と共に変化・拡大する「グローバル化」
①過去のグローバル化
2000年近く前から、日本は周辺諸国と経済・文化等において、様々な関わり合いを持って来ています。中国の三国時代や、隋・唐・五代等、また、高麗・李氏朝鮮等とは、多岐に渡る行き来があったことは歴史に示されている通りです。
また、その後のスペインやポルトガル、イタリアとの行き来があった時代にも経済・文化交流は行われ、その後徳川政権から明治政権に交代して、江戸時代は「鎖国」であったと言われたものの、実際はオランダのみならず中国や北方のロシアとのやり取りもあったのも事実です。また、中国で国が変わる節目には、多くの移民が日本に来て徐々に同化し、日本の経済・文化を発展させて来ました。
②現在のグローバル化
特に戦後においては、戦前から行われていた物と人の行き来がそれまで以上に活発になると共に、1990年頃からインターネットの更なる普及により、情報の交換、評価、売買も行われるようになり、グローバル化は加速度的に進んでいると言えます。
これに伴い、また、発展途上国を含めたより多くの国にビジネスが定着しつつあり、多くの企業が多岐に渡るビジネスを展開し、競争は以前にも増して激しくなっています。製造業でかつてアメリカが世界を席巻し、その後日本が席巻した時代は遠くなりつつあり、新興国が力を付けているのが現実です。

(2)年功序列主義
①年功序列主義ができるまで
1)中国との戦争が本格的に始まった1937年の2年後、1939年に「従業者雇入制限令」が施行されました。第1次賃金統制令・賃金基礎措置令と呼ばれるもので、初任給(3ヵ月)の最高額と最低額を公定し、雇用社員の賃金引上げを目的とした基本給変更を禁止しました。この結果、労働力不足による賃金の不当な高騰を防止し、結果として年功型にせざるを得なくなりました。
2)1940年には「従業員移動防止令」が施行されました。第2次賃金統制令・会社経理統制令と呼ばれるもので、地域・業種・性別・年齢で規定することで、年功賃金制度も勤続年数よりも年齢よりに変わっていきました。
3)アメリカとの戦争が始まった1941年には、「労働調整令」が施行され、労働移動と解雇が禁止されたことにより、終身雇用が強制されることとなりました。
4)戦後間もなくの1950年には日経連が見解を出し、生活給偏重を排除し、労働の対価である賃金の本質によって労働者の能力、能率を基軸とした合理的な体系を確立することが必要かつ当然として、「終身雇用、年功序列」に反対の立場を表明しました。政府も同様な立場を示しました。しかしながら、1970年代初めまでの高度経済成長を経て、この議論は途絶することとなりました。

(3)成果主義のメリットとデメリット
近年、「成果主義」を導入する企業が増えています。社員のモチベーションの向上をもたらす効果はあるものの、そのプロセスの品質向上の企業努力がなく、成果だけを求める場合もあり、社員が疲弊するだけに終わる可能性もあります。ここでは、日本における成果主義の導入状況と、「成果主義」のメリットとデメリットについて解説します。
①成果主義の導入の経緯と状況
1)日本における成果主義の導入
1993年、富士通は大企業としては初めて、アメリカ流「成果主義」を管理職に導入し、1998年には全社員に導入しました。しかし、現場は混乱し業績は低迷、十分に成果が出たとは言い難く、当時の社長は低迷の原因が社員にある旨の発言をしたため、社員の反発はより強くなりました。これに対応する為、2001年には結果に加えて結果を出すまでのプロセスも評価するよう制度を改定しましたが、効果は上がりませんでした。2004年当時の社長は、成果主義の誤解に繋がったのが富士通を弱くしたと釈明していましたが、実際はどうだったのでしょうか。
2)成果主義が成功しなかった理由
年功序列には手を加えず、形だけの成果主義を導入したことが原因であるとの社内の分析があります。成果主義とは名ばかりで、評価毎の人数割合は前もって決められており、成果を見ての評価とは言い難い状態だったようです。一方、管理職はその90%近くが高評価を受けていただけでなく、降格制度もなかった為、一般社員は、管理職と違って自分達は目標を達成したとしても正当に評価されないと思い始め、モチベーションの低下を招きました。これに依りできることを目標に掲げ、チャレンジ精神が低下していったと思われます。
現在は、成果主義の理念は正しいがやり方が間違っていたという反省の元、2020年4月に管理職にジョブ型を導入し、改善を図っています。ジョブ型は、ポストごとに職務内容や技能を細かく定義する雇用制度で、アメリカや一部EU諸国で取り入れられています。
3)成果主義が成功しない要因
成果主義が導入され、達成困難かもしれない目標を掲げると、達成できない場合評価が下がりますので、出来ると思われる目標を掲げる傾向が強まります。この傾向はどこの国のどの企業でも起こりうることです。しかし、社員が精いっぱいの目標を掲げたのか、その社員の技能からして低めに設定したのか、上司が見抜けるとは限りません。また、目標を掲げて困難さを強調して精いっぱいの目標を掲げているように見えても、実はそれを達成する方策を持っていて、結果として達成して高評価を得る、すなわち、初めから出来ることを目標に掲げていた、ということもあるでしょう。
また、メリハリのある評価をして格差をつけることで、活力を生み出すと考えている場合、実際日本の部課長の成果給はそのようですが、定期昇給というものは殆どなく、毎年の評価が高くないと上位にも行けず、上位に行かないと給与は上がらず、減給や降格もあるとなれば、短期志向が蔓延し、長期に渡る競争力の維持は危うくなります。
それではなぜ、成果給が取り入れられたのでしょうか。これはおそらく、アメリカの給与制度の実態を知っていると思い込んで、形だけの導入をしたことに要因があると思います。「KAIZEN」(改善)の具体的内容を分かったつもりで、充分な要因分析をせずに、今の作業方法を変えれば業績が上がると思い込んで実施してしまうアメリカ企業があったとすれば、これに似ているところがあると思います。
「Do Formal Salary Really Matter?」(Gibbs and Hendricks、2004年)によると、日本の大卒ホワイトカラー層に相当する社員の個々人の人事記録を5年間分析したところ、減給は0.2%、昇給ゼロは16.4%、降格は0.4%程度となっており、成果給を分かったつもりで取り入れた日本企業の制度とは大きく異なることが分かります。この点については、「戦後労働史からみた賃金」(小池和夫、2015年)にも記されています。
②成果主義のメリットとデメリット
ここでは、前述の内容と一部重なる部分もありますが、成果主義のメリットとデメリットについて記します。
1)メリット
a.全社・部門・個人の生産性の向上
成果主義の導入により、成果が昇進・昇給に結びつくとなれば、成果を上げるために努力する人が増えると思われます。なんとなく会社の業務をこなしていれば給与をもらえていた場合と比較して、能力を磨き発揮しようとする人が増え、競争意識も向上し、組織としての生産性も上がると思われます。これにより、社員のモチベーションの向上も期待できます。
b.若手社員の意識の変化
給料に見合う仕事をしていない高齢の社員がいることに、若手社員には不満を持つ人もいるかと思います。成果主義の導入で、年齢は若くても昇進・昇給がなされ、このような不満は減少し、活力ある組織になると思われます。
2)デメリット
a.仕事の選別、情報共有・協力の低下
自分の成果の評価に繋がらないと判断した仕事は行わなかったり、他者への情報共有や業務の協力が、自分の評価にはつながらないため、避けるようになったりする可能性があります。
b.精神的な疲労と新たな挑戦意欲の低下
できる事しかやらないようになり、また、成果が充分上げられないことが続くことで、社員は疲弊し効率は低下、また、心の余裕が低下するため、新たな発想をしたり挑戦したりする意欲がなくなります。

(JDIOダイバーシティ・シニアコンサルタント 米倉早織)