働く人本位とお互い様の精神

もう20年以上前、90年代終わりに日本の百貨店からパリ支店に出向になった。トレーニーという扱いなので労働ビザは最長でも1年半で、まだ20代だった私は「なんでもみてやろう」と勇んでフランスに乗り込んだ。それまで海外といえばアメリカをイメージしていたので、ヨーロッパ、ラテンの文化は発見の毎日だった。

フランスでは小売店で働く人の力が強いこともそのひとつ。店員は椅子に座ってお客様を待つ。売り場に人がいないので通りかかった店員に声をかけると「私は今から休憩だから」と取り合ってもらえない。日曜日には店を閉め、消費者はウインドウショッピングするしかない。お店のウインドウやビジュアル・マーチャンダイジングが素敵なのは、売らない日にも商品に語らせるための工夫なのかもしれない。

百貨店で働いていても毎日曜日に休むことができたが、ほかの小売店も休んでおり、24時間営業のコンビニもないので、一人暮らしには不便もあった。パリ市民は頻繁に起こるストライキを「働く人の権利であるし、私もストをして迷惑かけるかもしれない」というお互い様の精神で受け入れているように見えた。24時間営業を強要するフランチャイザーなど理解できないだろう。

コロナ禍でなかなかフランスに行くこともかなわないが、21世紀デジタル化が進んだフランスでもやはり働く人本位で社会が動いているのではないかと想像する。(F.N.)