ハラスメント対策シリーズ:13

4.ジェンダー(社会的性差)に見られる偏見と差別 

(1)日本は女性「後進国」
世界は日本の女性の地位が低いことを知っています。そして国内でブーイングが起きないことに「はてな?」と首をかしげています。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数」2021年版によると、男女の性別格差は(小さい順に)156 か国中120位。分野別では政治面147位(ワースト10)、経済面117位、教育面92位、健康面65位。政治・経済面での格差が際立っており、とても胸を張れた水準ではありませんが、国内の反応は「鈍いまま」です。

この遅れた状態に火がつき始めました。「取締役会に女性がいない会社の取締役選任議案に反対する」。ゴールドマン・サックスグループの大手資産運用会社(GSAM)の議決権行使基準です。同社はこれをコロナ下の日本の株主総会で投資先約400社に実行しました。ダイバーシティが常識の世界企業とのギャップが障害となって突き付けられた格好です。また、オリンピックに係る日本のジェンダー意識の遅れが国際的に問題になったのも、記憶に新しいところです。
図表3-4 ジェンダー・ギャップ順位

出所:世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数2020年版」

(2)見えない社会の意識や偏見 我が国では職場や社会で女性が十分活躍できる環境にはなっていません。その原因として挙げられる筆頭が職場での長時間労働ですが、その奥には「男は仕事、女は家庭」という性別役割意識や女性に対する無意識の偏見が存在します。これをジェンダー・バイアス(*)と言います。ジェンダー・バイアスは欧米先進国にもあり、偏見の中でも根強い一つと言われます。
(*)社会の女性に対する評価や扱いが差別的であることや、社会的・経済的な非合理な偏見を指す。ジェンダーは生物学的・解剖学的な性差ではなく社会的・後天的性差であり、バイアスはその関係づけられた偏りを意味する。

ここで、ジェンダー・バイアスに係る米国での実験データを紹介しましょう。

「ハイディとハワードの実験」:アメリカの研究者が2003年に実施
ある女性起業家の成功体験談を学生たちに読ませ、感想を聞いた。ただし、半数にだけ本名のハイディ(女性名)を教え、残る半数にはハワード(男性名)の体験談だとウソをついた。すると「有能」との評価では一致したが、ハイディさんにだけ「自己中心」「一緒に働きたくない」との感想が目立った。

登場するのはシリコンバレーで目覚ましい活躍をした実在のハイディ・ローゼンさん。2つのグループによる実験結果には「男性には成功がプラスに働くが、女性にはマイナスに働く」「実績と好感度は、女性の場合反比例で捉えられる」という女性性への偏見の影響が表れていました。
ところで、こうした偏見の壁を先取りするかのように、女性は困難に遭う前から成功を目指さなくなったり、男性に比べて低いセルフエスティーム(自己肯定感)に止まったりすることが指摘されます。これも偏見と差別が生む弊害であり、現実に存在する問題なのです。

(3)女性への複雑な出方に注意
女性に対する無意識の偏見には複雑な出方があります。敵対的差別と慈善的差別の2つで、男女の異性愛と双方の勢力差や依存関係が関わるとされます。
① 敵対的性差別:男女の役割意識を引きずったステレオタイプによる差別
思い描く女性像から逸脱した女性に対して敵意として出てきます。男性と肩を並べて頑張ったり、はっきりものを言ったりする女性を敵対視してしまう。描かれる女性像を、性役割を測定する心理テストから抜粋したのが図表3-5です。
図表3-5 人の男性性・女性性を測定する評価特性

出所:Bem Sex Role Inventoryテスト日本語版から抜粋

②慈善的性差別:パターナリズム(父性主義)(*)による差別
一見好意的で親切な行動として出てきます。「女性に機械操作は酷だろう」「子育て女性は大変だから、アシスタント業務をしてもらおう」などがこれに当たります。
慈善的性差別の落とし穴は女性の潜在力を削ぎかねないことです。従えば優しく扱われることが、成長機会を失ったりパフォーマンスを下げたりすることになりかねません。一方、能力を持ち、積極的な女性がその特性を示すと、「生意気」「可愛くない」「わきまえていない」といった評価を受ける(=ダブルバインド)のもよくあることです。
(*)英・paternalism。強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること。温情主義、父権主義ともいう。